「九条の会・有明講演会」に9500人の熱気
だが、冷淡な大手マスコミの扱いに落胆  池田龍夫(ジャーナリスト)
 「私たちは、平和を求める世界の市民と手をつなぐために、あらためて憲法九条を激動する世界に輝かせたいと考えます。そのためには、この国の主権者である国民一人ひとりが、九条を持つ日本国憲法を、自分のものとして選び直し、日々行使していくことが必要です。それは、国の未来の在り方に対する、主権者の責任です。日本と世界の平和な未来のために、日本国憲法を守るという一点で手をつなぎ、『改憲』のくわだてを阻むため、一人ひとりができる、あらゆる努力を、いますぐ始めることを訴えます」(2004.6.10)――「九条の会」が高々と宣言したアピールの一節である。
イラク戦争→自衛隊サマワ派遣に便乗して、憲法改正(狙いは『九条』)が声高に喧伝される物騒な時代になってきた。井上ひさし、梅原猛、大江健三郎、奥平康弘、小田実、加藤周一、澤地久枝、鶴見俊輔、三木睦子の有識者九人が大同団結して「九条の会」を結成して全国民に呼びかけてから1年余。市民運動の高まりは全国に広がり、ますます熱気を帯びてきた。地域・職場・分野別に、「映画人九条の会」「九条科学者の会」「九条歌人の会」、異色の「念仏九条の会」など独自の市民組織が結成され、わずか1年余で3026組織(7月末現在)が誕生した。政党や労組の支部結成とは違い、「日本国憲法を守る」との合言葉のもと、これほど劇的に市民運動が拡大したことは、「敗戦から60年、築き上げてきた平和ニッポン」への熱い思いのためだろう。

     ◆「独自の『会』を立ち上げ、ネットワークを広げよう」
全国各地で学習会や講演会が開かれてきたが、7月30日に東京・有明コロシアムで開かれた「九条の会・有明講演会」は、最高の盛り上がりをみせた。沖縄、北海道をはじめ全国から9500人の市民が集り、井上ひさしさんら6氏のスピーチに耳を傾けた。インターネットのHPのほか朝日・毎日・東京(中日)3紙に全7段広告を掲載して参加者を募った(会費1000円)ところ、7月16日に申し込みが1万人に達し、キャンセル待ちの盛況となった。
奥平康弘氏(憲法研究者)が「憲法九条1項は、戦力を保持しない2項と結びついて意味を持つもので、2項を欠いた1項は抜け殻」と警告を発し、小田実氏が「世界の人びと、アジアの人びとがわれわれを信頼するのは平和憲法があるからで、このことを深く考える時期に来た」と訴えたほか、三木、鶴見、大江、井上4氏それぞれに独自の護憲論≠披露した、実りある講演会だった。
なお「九条の会」事務局は講演会終了後、今後の行動について次のような訴えを発表した。
◎「九条の会」アピールに賛同し広範な人びとが参加する「会」を、全国の市区町村、学区、職場、学校につくり、さらに広げましょう。
◎相互に情報や経験を交換しあうネットワークを広げ、来年、全国的な交流集会をめざしましょう。
◎大小無数の学習会を開き、日本国憲法9条の意義を学び、改憲キャンペーンをはねかえしましょう。
◎私たちひとりひとりが、ポスター、ワッペン、署名、意見広告、地元選出の政治家・影響力をもつマスコミへのハガキ運動など、9条改憲に反対する意思を、さまざまな形で表明し、大きな世論をつくりだしましょう。

     ◆市民運動≠ノ及び腰?の大手マスコミ
メディアは、この「九条の会」大集会をどう伝えただろうか。在京6紙7月31日朝刊のうち、朝日・毎日・東京が第2社会面に掲載したものの、いずれも「催し物案内」のようなミニ・ニュース扱いだったのに驚いた。「九条の会」HP(第48号)によると、「多くのマスコミも注目し、朝日・読売・毎日・共同や東京・埼玉・神戸などの地方紙、NHK・TBSテレビなど国内のマスコミばかりか、イギリスのBBC、アメリカのVOA、韓国KBS、AP通信、AFP通信など海外のマスコミも取材に訪れました」と記している。だが、記事扱いも放映時間も、驚くほど冷淡だった。
改憲論議が熱を帯びてきた時代状況の中で、全国的なうねりとなった市民運動には、大きなニュース価値があったはずだ。紙面掲載しなかった読売・産経・日経は、報道機関としての役割を果たしていないとすら感じた。市民運動軽視≠フ姿勢が垣間見えて、まことに不快である。当日紙面は「野口総一さんの宇宙船外活動」以外に目新しいニュースがなかったのに、この冷遇に大きな疑問を感じた。唯一「しんぶん赤旗」が1面トップで伝えたのに注目した。市民運動としての「九条の会」に焦点を合わせ、客観報道に徹した紙面構成に好感を持った。大新聞や放送局が価値判断を誤ったのか、あるいは自己規制≠オたのか。摩訶不思議なマスコミ報道に首を傾げた。「護憲勢力をバックアップしろ」と言っているのではなく、社会的ニュースを公正に判断し、読者・視聴者に伝えるのがマスコミ各社の責務だと考えるのである。官製ニュースに押されて、声なき市民や弱者の声や運動を軽視しないよう大手マスコミに望みたい。