「ルポ日本」=「憲法60年」−日比谷の風景
日比谷公園に平和と生活の「ねがい」、 憲法を、9条を守ろうの訴え広がる
関東学院大学、東つつじヶ丘在住 丸山 重威
(JCJホームページから転載)

 「ずっと五月晴れというわけには行かない」という天気予報だったが、3日は風もなく穏やかな五月晴れだった。
この日、憲法は施行から60年。改憲手続きを具体化する「国民投票法案」が参院で審議中。マスコミは早々と「今国会で成立の見通し」と見切りを付けたが、もしそんなことになれば、ここに含まれている国会法改正で秋の国会から設けられる「憲法審査会」で「改憲案」の実質的議論が始まる。「こんなことでいいのだろうか。国会とは、やっぱり権力者の『支配の道具』に過ぎないのか…」という一種の絶望感が脳の片隅をかすめる。
それでも、と気を取り直し、薫風に誘われるように日比谷に出掛けた。地下鉄の日比谷を降りると、地域の「9条の会」で顔見知りのHさんがいた。彼も1人でやってきたのだ、という。「どこか気になる…」。そんな思いは私と共通のようだった。

 ▼「敵さんは焦っているな…」
駅の階段を上がると、耳をつんざくスピーカーの音があたりに響いていた。右翼の宣伝カーが10台近くもあるだろうか。最近では軍歌ではなく、何かわめいているだけ、という声の暴力。警視庁の機動隊が次々と道を封鎖し、開場に近づけないようにしている。
選挙中の伊藤一長・長崎市長が4月17日、銃弾を浴びて亡くなってからまだ20日。右翼が何かしでかすスキを狙っているのかもしれない。
赤旗日曜版が一橋大の渡辺治さんの「実は改憲派が追い詰められている」というインタビューを載せていたが、多分その通りで、「9条守れ」の声の広がりに焦っているのは向こうさんの方だろう。それだけに、何をしてくるかわからない。脇を固め、腰を据えた闘争が必要なのだ。
日比谷公会堂の前に着いたのは、集会の開会直前だった。会場はすでに一杯。スーパービジョンで、映し出される中の様子もよく分かる場所に陣取った。
この憲法記念日の統一集会も、始まったのはいつだっただろう。もう随分長い伝統を作った。社会部記者時代、「護憲派」「改憲派」とたいてい一人で、2つか3つの集会を車で回った。その習性はなかなか抜けないが、今日はここでずっと聞こう、と思っていた。
「改憲手続き法はいらない STOP!『戦争をする国』づくり 生かそう憲法 守ろう9条 2007年5・3憲法集会」という長い名前の集会は、「憲法改悪阻止各界連絡会議(憲法会議)」や、「平和憲法21世紀の会」など、共産党、社民党系といわれる団体に加え、女性、キリスト教団体など8団体で構成する実行委員会の主催。「護憲派」はまだほかにも集会を開くが、この集会は、終了後の「銀座パレード」が予定されている。
公会堂の前の広場はもう一杯になっている。敷物を持ってきた用意のいい人もいるが、たいていはお構いなしで、舗装された地面に直接座り込んでいる。緑の公園の中での参加は、公会堂の中よりずっと心地よいのかもしれない。
司会者は、「子どもと法21」の男性と、「許すな!憲法改悪市民連絡会」の女性。開会挨拶は「平和を実現するキリスト者ネット」の鈴木伶子さん。
鈴木さんは「剣をとる者は剣で倒れる、と聖書にある。軍事力ができるのは殺傷と破壊だけ。安倍首相は『憲法も60年経って時代に合わなくなった』などと食物の賞味期限のように言っているが、日本国憲法は日本と世界が目指す方向の先取りだ。戦争と軍備の放棄の道を広げていこう」と話した。

 ▼続いた力こもったスピーチ
集会は大きく2つに分かれ、第1部では、中央大学教授の植野妙実子さんと広島平和研究所長の浅井基文さん、第2部では福島瑞穂・社民党、志位和夫・共産党の両党首が話すことになっている。
最初の植野さんは、フランス公法を勉強した憲法学者。落ち着いた調子で「美しい国」のイデオロギーを批判した。
植野さんが強調したのは、いま進められている「競争原理」「市場原理」をあらゆる政策に持ち込み、個人主義を進める「新自由主義」の裏側で、個人主義と矛盾した古い体質が共存していること。「若者が希望を持てる国づくりを考えよう」という言葉に実感がこもっていた。
次のスピーチは、外務省出身で東大、日大、明治学院大などで教鞭を執った浅井基文さん。「風邪を引いて声が出ない」とがらがら声で、すこし気の毒な状況だったが、「3つのことを話したい」と、話した。
浅井さんが強調したのは、@改憲派が9条改憲にこだわるのは、「力による平和」を可能にするチャンピオンとして「戦争する国」に変え、米国とともに戦争ができるようにすることA小異を残して大同につくことがいま重要だB憲法を護りきれるかどうかは主権者である国民にかかっており、主権者の一大奮起、一大覚醒が求められている−ということ。浅井さんは、「日本国憲法は個人を尊重した21世紀の日本と世界を代表する憲法であり、量は質に変化するのだから、あきらめたらおしまいだ」と、「護憲党派の団結」を訴え、大きな拍手を浴びた。
この後、ステージでは、集会に駆けつけた市田忠義、保坂展人氏らの国会議員の紹介、憲法会議の西川香子さんの会場費などのカンパの訴えなどが行われた。「昨年子供を産んだ私は、すべてのお母さんを尊敬します。戦争の道は子どもためにもお断りです」と西川さんは自分の体験も話した。続いて、「私はお笑い」とオオタスセリさんが登場。「私はラブソングだと思っていたのに『放送ではダメ』と言われた。憲法も関係があるのかも」と話しながら、「ストーカーって呼ばないで」などの歌とコントを披露した。
第2部のスピーチで、最初に登場したのは、ピンクのスーツに身を包んだ社民党党首の福島瑞穂さん。女性の立場と弁護士の体験を語りながら、「『格差拡大』と『戦争する国』はコインの裏表。9条を変えさせてはならない」訴えた。そして、「国民投票法案が成立すれば秋から改憲案づくりが国会で始まる。この法案を成立させないよう、死にものぐるいで頑張ろう」と熱を込めて訴えた。
私には、「軍事政権下ではメディアが自由を奪われている。そんなとき、反対する人々がとったのは『ささやき戦術』だった」という言葉も印象に残った。そんな状況にしないために、メディアはもっと書かなければならない。
最後に登壇したのが、共産党の志位和夫委員長。志位さんは、「安倍政権のもとで、憲法改悪の暴走が始まっている。平和を壊す暴走を食い止める決意を話したい」と、安倍内閣と改憲論が、「靖国派」のイデオロギーに支配されていることを諄々と解説、「草の根からの闘いが世論を動かしている」と強調した。

 ▼メディアも、世論も揺れている…
集会でも強調されたが、この春、次々発表された世論調査は、毎日新聞を除いて、各社とも「改憲反対」「9条改憲反対」の数字が増え、特に9条については、改憲反対の声が大きく広がっていることだ。
4月5日付の読売調査では「憲法を改正する方がよい」は前年比9ポイント減で、3年連続の減少。「改正しない方がよい」は7ポイント・アップで、やはり3年連続。4月10日のNHK調査では、「9条改正の必要はない」が44%で昨年比約5ポイント増、5月3日付日経も、「改憲賛成」は51%だが、2年前と比べ3ポイント減、「護憲支持」は6ポイント増だという。
ただ、毎日新聞は3日付で「改憲賛成51%、反対19%」を大見出しにし、「改憲賛成が半数を超えたのは初めて」と書き、9条でも他社の調査と違って、「改正容認派が59%」としたが、よく読むと、「一切変えるべきでない」と「何らかの改正が必要」に振り分けることを意識しての調査だった、という。
私は、いつも指摘していることだが、世論調査の回答は、質問の順序や仕方で大きく違うし、何より内容をはっきり提示しないで、賛否を問いかけても、それはせいぜい「ムード」がどちらを向いているか、をみることでしかないと思う。しかし、問題なのは、それが政治を動かしているということであり、メディアがその結果を報道することは、状況を拡大していくということだ。
しかし、この数字の変化は、明らかに「9条の会」の拡大にみられる地道な憲法運動の広がりと、改憲を前面に出して突き進む安倍政権をみて、「本当にこんなことをしていると戦争に巻き込まれかねない」という危機感が、保守、革新を問わず広がっているためだろう。
しかし、この状況の中でも、在京各紙の社説は、あまり変わらない。例によって2つに大きく分かれているが、目立つのは、朝日が「9条は変えない」と明確な姿勢を打ち出し、大規模な「提言特集」を組んだことだ。朝日は、「『地球貢献国家』をめざそう。これが「新戦略」のキーワードだ。地球温暖化や人口激増、グローバル化による弊害……。さまざまに迫る地球上の困難に対し、省エネ、環境技術をはじめとする得意技で貢献する。さまざまな国際活動の世話役となって実りを生む。それが、日本の国益にも直結する。『戦争放棄』の第9条を持つ日本の憲法は、そのための貴重な資産だ。だから変えない。これも私たちの結論だ」と書きだして、リードにあたる「提言―日本の新戦略 憲法60年」と、21本の「提言・日本の新戦略」を掲げた。
毎日は「平和主義を進化させよう 国連中心に国際協力拡大を」だったが、東京は、1日から「イラク戦争が語るもの」「統治の道具ではなく」「直視セヨ 偽ルナカレ」と3回続きで、「憲法60年に考える」の連続社説を掲載した。
これに対して、「改憲派」は、読売「憲法施行60年 歴史に刻まれる節目の年だ」、日経「還暦の憲法を時代の変化に合う中身に」、産経「憲法施行60年 日本守る自前の規範を 新しい国造りへ宿題果たせ」と、国民投票法案の成立を既成事実として議論を展開している。本当にそれでいいのだろうか。何より危惧するのは、状況をもう少し冷静に見て、柔軟にものを考える姿勢が必要ではないか、ということなのだが…。

 ▼いよいよ迫る「対決」?
安倍首相は憲法記念日に当たって、「戦後レジームを原点にさかのぼって大胆に見直し、新しい日本の実現に向けて議論を深めることは新しい時代を切り拓いていく精神へとつながる」「憲法は、国の理想を物語るものだ。憲法の在り方について、国民的な議論がさらに広く展開され、方向性が出てくることを強く期待する。子どもたちの世代が自信と誇りをもつことができる新しい日本の姿の実現に向けて、憲法の基本原則を改めて深く心に刻んで、さらに前進する決意を新たにする」と改憲への意欲を示した異例の談話を発表した。首相は憲法99条で「憲法尊重義務」を課せられている。問題はないのだろうか。
東京新聞によると、問題の九条改憲を後回しに、環境やプライバシーを先行させる「二段階改憲」を自民党が検討し始めている、という。いつか産経が主張した方式だが、「何が何でも」の焦りと見えなくもない。
ついでに書いておこう。
4日付の赤旗、産経などによると、「新憲法制定議員同盟」(中曽根康弘会長)と「新しい憲法を作る国民会議」(愛知和男会長)は「新しい憲法をつくる国民大会」を開催、「新憲法案」の「前文」案を公表。中曽根元首相は「情勢によっては大連立もしくは政界再編成が必要かもしれない」と述べた。また、「『21世紀の日本と憲法』有識者懇談会」(民間憲法臨調、三浦朱門代表)と「新憲法制定促進委員会準備会」(古屋圭司座長)によるフォーラムでも2つの「新憲法大綱案」が示された。
「新憲法制定議員同盟」の愛知和男幹事長は、「最近では『九条の会』と称する団体が全国に何千と支部を作って、憲法を守る運動を展開している。これに対抗して、私どもも国民に対して憲法を新しくする意義を理解し、支援してもらう運動を展開していかなければならない」と発言。「民間臨調」のフォーラムで司会した大原康男国学院大教授は「世論はわれわれ(改憲派)が安心できる状況ではない。護憲勢力は危機感を持って、先行して(九条改憲阻止の)取り組みをしている。草の根の取り組みをしなければならない」と訴えた、という。
右翼の宣伝カーの街宣活動は、参加者の「銀座パレード」が出発しても続いた。口汚いわめきは、まさに彼らが「追い詰められている状況」を示しているように思える。しかし、それだけに、国会での強行も含めて、何が起こるかわからない。
しかし、浅井さんが言った通り、「あきらめたらおしまい」だ。
日比谷公園の美しい緑をみんなが見上げ、それでどこか癒されるように、ゴールデンウイークのささやかな幸せが続き、それが日本中に、世界中に広がっていけるように…。
私たちがしなければならないことは多い。でも、元気でいる限り、この時代に生きた証に、ささやかな努力をしてみよう。…そんな思いに誘われる午後だった。
(了)

 「2007年5・3集会」でのスピーチ要旨(文責・丸山重威)

 ▼改憲派が示す新自由主義と保守の同居 …植野妙実子(まみこ)さん

 日本国憲法は戦争の反省の上に作られた。だから9条は、憲法の命であり柱だ。もともと憲法は権力が国民に示すものではなく、国民が権力に押しつけるものだ。だから、憲法は権力を抑制するために2つの基本原理を決めた。それが人権の尊重と権力の分立だ。そしてその人権を守るために、日本国憲法は、単なる平和主義ではない「恒久の平和」を目指した平和主義を決めている。
自民党草案では、9条の戦力の放棄や交戦権の否定を崩しているがそれだけではなく、自由や権利も幅広く制限される。宗教の自由でも、思想的に1つの考え方を押しつける。
米国と共同で自由に行動することに日本の経済発展がかかっている、という考え方がある。新自由主義、つまりアメリカ型のグローバリズムを進めようという考え方だが、もう一つ目立つのは、そういう個を尊重する考え方を根本的に覆し、古い時代を呼び戻そうとする考え方がじわじわ出ていることだ。家族や国家のを考えるにしても、個人主義、民主主義は基盤なのだが、家族とか国家とかを持ち出してそれを押さえようとする。「300日問題」「ジェンダーフリー・バッシング」はそれである。
言葉にも気を付けたい。「美しい国・日本」という。しかし世界全体が美しくなくてどうして日本だけが突出する「美しい国・日本」ができるだろうか。団塊の世代は、定年前にリストラされ、年金は65歳から。どこに「美しい国」があるのか。「美しい国」は、とても私たちが共有できない、一部の金持ちが言える言葉だ。
いま、学生たちは就職が決まってもそこで一生過ごそうとは思っていないし、地方では大学を出ても就職できない学生が一杯いる。若者が希望を持てない国になってしまった。こんな日本に誰がしたのか。基本の生活に不安がある中では自分の生活だけを守るようになってしまう。日常の中から希望の持てる国にしなければならない。
いま国民投票法案が参議院にかかっている。どう解釈したらいいのかさえよくわからないままに、成立してしまいそうだという。こんなに反対が多いのだから、元に戻ってやり直すべきだ。いろんな手段で国政に反映していこう。国民には知る権利もある。どうなっているのか見極め、若者が希望を持って国造りに参加できるようにしていこう。9条はそのための柱だ。

 ▼改憲の狙いを見抜き、共・社の「団結」を …浅井基文さん

 最初に話したいのは改憲派の狙いだ。最大の目標はよく知られている「9条の改定」だ。
なぜ9条を変えたいのか。まず第一は、「力による平和」を可能にするチャンピオンとして「戦争する国」に変えることだ。米軍の再編、日米の軍事一体化を進めて米国のもとで戦争ができるようにする。このために、集団的自衛権も論じられている。
国連憲章で言う自衛権は攻撃を受けたときの反撃だけだ。イラク戦争の場合、米国は国際法違反の侵略戦争を始めたのであり、イラクの反撃が自衛権の発動だ。かつて日本は中国に侵略戦争をした。これも集団的自衛権の行使ではない。2005年の自民党草案では、「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び緊急事態における公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる」としている。民主党も中間報告で「国家間紛争に代わって、新しいタイプの脅威が地球規模で覆いつつあり、これに対応しうる新たな安全保障と国際協調主義の確立」としており、基本的に同じだ。これは、米国主導の戦争に加わる、ということだ。
私は皆さんに是非正確な米国観と国連観を持ってほしいと思う。国連は第2次大戦の被害者として、侵略や攻撃を受けないよう「力による平和」観をとった。しかし、日本国憲法は、2度とそんなことを起こさないように、ということで9条を持った。国連とは平和観が違っている。私たちは、国連が武力介入をしようとするときには、これをただす行動をするべきで、国際協調ならいい、国連ならいい、といった態度をとることはできない。
自民党草案を覆うのは国家を個人の上に置く古い国家観だ。自民党草案の12条、13条では、「国民の責務」として、「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚しつつ、常に公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務」を言い、「公益及び公の秩序に反しない限り」の「最大の尊重」を言っている。「公益及び公の秩序」とは「国益及び国家の安全」で、いわば基本的人権が国に従属させられるのだ。
いま、改憲派は「新しい人権」を言って支持の取り込みを図っているが、朝日の世論調査では、「憲法を改正した方がいい」という人の理由は、「新しい権利や制度を入れるため」を上げる人が昨年は38%だったのが、今回84%になっていることだ。改憲は新しい人権を守ることにはならない、ということをわかってもらう必要がある。われわれはいままで、個人の尊厳を基礎に置いた国家観を積極的に語っては来なかった。私たちはこれを積極的に語り、国家を個人の上に置いた古い国家観を批判し尽くすことが必要だ。
第2に訴えたいのは、小異を残して大同につくことの重要性。社民党の福島さんと共産党の志位さんにお願いしたいが、憲法を護ることで団結してほしい、ということだ。
私はよく「9条の会」などに呼ばれるが、そこでは一緒に行動できない人が、違いを超えてやっている、という紹介されている。随分この動きは広がっている。
もうひとつ、メディアの世論調査で、読売も、NHKも、朝日も、確実に憲法改定に反対する声、9条を守ろうという声が高まっていることに注目したい。読売の調査では、昨年5月の55.5%だった憲法改正に賛成する人は、ことしは46.2%に9ポイントも落ち込み、3年間で20ポイント近く落ち込み、一方改定反対の人は32.2%から39.1%になった。朝日でも、改定賛成論は42%が33%に、反対派42%が49%になった。自衛隊の存在を明確にしたいという人は62%が56%になり、それに反対する人は28%が31%になっている。これらは、対米軍事協力の進行への警戒心の高まりと、安倍首相が進めている改憲論議に慎重さを求めていることに起因している。
こうした世論の高まりにもかかわらず、政党の現場の不信感は相当なものだ。これを何とかしてほしいと痛切に思う。政界再編は避けられない中で、両党が相互の不信感を払拭できず手を結べないとすれば、その政治的責任はきわめて重いと言わざるを得ない。
第3に訴えたいのは、どのような状況になるにしても、憲法を護りきれるかどうかは主権者である国民にかかっており、主権者の一大奮起、一大覚醒が求められている、ということだ。確かなことが3つある。@日本国憲法は個人を上にした憲法であり、21世紀の日本と世界を代表する憲法であるA改憲反対の声も、量的な変化はやがて質的変化をもたらすBしかし、あきらめたらおしまいである−ということだ。いま、改憲反対9条守れの声は確実な高まりを示している、弁証法的な発展に確信を持って頑張ろう。

 ▼「雇用不安ない2世3世の『憲法ごっこ』」を阻止しよう …福島瑞穂社民党党首

 60年前、女性には選挙権も被選挙権もなかった。個人の尊厳、男女平等については帝国議会で激論が交わされた。旧民法時代、妻は無能力者だったが、憲法24条ができて、親族相続編が改正された。結婚届を出さない親から生まれてきた子供の続柄記載訴訟で勝訴した。私はずっと、この憲法の下で生まれた喜びと感激に生き、日本国憲法を生かそうと思って闘ってきた。
戦後補償裁判も闘ってきた。その中で学んだのは、「戦争をしてはいけない」ということだ。いくら戦後補償をしてもらっても、奪われた人生を取り戻すことはできない。戦争をしてはいけない、ということを再確認したのが、憲法9条だ。「9条は無力だ」とか「古い」という人がいるが、それは違う。
戦後の日本は、日本人に戦場で外国人を1人も殺させなかったし、戦場で日本人は1人も殺されなかった。これは憲法9条の最大の功績だ。その中で非核3原則や武器輸出の禁止ができた。ところが自民党の中川昭一さん(政調会長)は「武器禁輸3原則があるから日本は武器輸出できない」という。しかし、自衛隊が持っているクラスター爆弾の75%は国産だ。日本の技術は優秀で、いい製品ができる。環境にやさしく、人間に残酷な武器が造れる。それを売りたい。日本人はそんなことを望むのか、がわれわれに突きつけられている。憲法でちゃんと位置づけているという歯止めが崩されようとしている。そんなことをしてはいけない、ともっともっと言わなければならない。
5年で憲法を変えるという安倍首相は、集団的自衛権について、有識者会議を作って何ができるのかを見直すという。なぜ、できないことを研究するのか。これに抗議しよう。
憲法は総理大臣や国に憲法を護る義務を課している。一人ひとりの人生を大事にするところから政治は始まるはずだが、柳沢大臣は情勢は「生む機械」だと言った。その厚生労働省が、労働者も24時間働けるように、と日本型エグゼンプションを計画した。労働者は機械ではない。福祉予算は、毎年2200億円ずつ減らされている。「生む機械」発言に端的に見るように、人間をモノとしてしかみていない。全国一斉学力テストが行われたが、子どもたちは工業製品ではない。ベルトコンベアーから規格外製品をはじき飛ばすようなことは許されない。教育3法では、免許の更新を決めるのは教育委員会だという。子どもたちより教育委員会を見るようになる。「自民党新憲法草案」は、国家が人間の上に立って、国家への忠誠で人間を計る。政府にとって有用かどうかで切り捨てていくのだ。
主権者は国民だ。一人一人、喜びも怒りも、悩みもある。これを許容しない政府には対決しなければならない。国家を主人公にする政治を、全力を挙げて変えていこう。「格差拡大」と「戦争する国」はコインの裏表だ。イラク戦争は貧しい子どもたちが戦争に行かされ傷ついている。平和的生存権が脅かされている。それを守るために頑張ろう。
国民投票法案について、マスコミは5月中旬にも成立するかどうか、などといっている。しかし、そんなことになれば、秋から憲法審査会が国会にできて、改正案の大綱、要綱まで作り始めるという。そうすると、3年後には発議ができて60日で国民投票ができる、という。最低投票率も決められていないし、財界がお金を使って「新しい国に新しい憲法、美しい国に美しい憲法」などというCMが流し、一方では反対の運動が規制される。いま国会では、2世3世という雇用不安がない人が「憲法ごっこ」をしている。これを許すわけには行かない。
メディアが権力に押さえられた軍事政権下で、民主主義を勝ち取った人々の闘いの方法は、「ささやき戦術」だった。変わらなければならないのは憲法ではなく、国会であり、政治だ。死にものぐるいで頑張ろう。

 ▼「靖国派」の暴走を食い止めよう …志位和夫日本共産党委員長

安倍内閣になって、憲法問題に新しい状況が生まれ、運動を前進させる条件が広がってきている。
まず第一は、小泉前首相はごまかし続けてきた、なぜいま改憲なのか、だれのための改憲なのか、ということが、安倍晋三首相自身の言動ではっきりみえてきたことだ。
小泉首相は会見については「自衛隊の位置づけを書き込ませるだけ。戦争をするなんて考えてもみない」などといっていたが、安倍首相は小泉さんより正直で、繰り返し語ったことが、「海外での紛争で、米国と肩を並べて武力行使することは憲法改正なしには出来ない」という言葉だ。「米国と肩を並べて」という言葉が好きらしいが、これは、改憲が「米国と肩を並べて戦争する国」づくりにあることを自ら宣言したものだ。そして、安倍首相は明文改憲以前に、イラクで活動している自衛隊が一緒に活動している他国の軍隊が攻撃されたとき応戦することは今の憲法で認められてもいい、と集団的自衛権について有識者懇談会を作って検討を始めた。憲法のまともな有識者は一人もいない、結論先にありきの「御用会議」だが、これを許すわけには行かない。小泉前首相は「戦闘地域には行かない」「武力の行使はしない」と制約を上げたが、安倍首相はこれらの制約を取り払って「派兵」から「参戦」に大きく踏み出そうとするものだが、このシナリオを書いたのはアーミテージ元国務副長官など米国だ。私たちの憲法9条を米国の要求に売り渡すのは最悪の売国奴だ。
第2は、安倍内閣の新しい特徴として、改憲推進勢力の中心に、過去の侵略戦争を正当化する「靖国」派が公然とすわったことだ。宮沢内閣の閣僚は安倍首相を筆頭に18人中15人までが、「日本会議」など右翼の靖国派各団体に所属している。「なんとか還元水」の大臣も、「女性は子どもを産む機械」の大臣もみんな靖国派の同士たちだ。
日本会議のホームページには「美しい日本を再建し誇りある国づくりを目指した国民運動」として発足したと紹介されている。また2002年の設立5周年記念大会では、@国会が速やかに憲法改正の発議に踏み切るよう働きかけるA歴史と伝統を基調とする教育基本法の全面的改正を求めるB靖国神社を蔑ろにする国立追悼施設計画を阻止し、首相の参拝の定着化を求めるC崩壊しつつある家族と地域社会の再生を目指し、道徳心涵養の国民運動に取り組む−と決議している。これが安倍首相の「美しい国」のルーツだ。「再建」というのだから、むかし「美しい国」があったわけで、それが「戦後レジームからの脱却」。つまり、戦後、日本国憲法が規定した平和的民主的な体制から脱却して戦前の侵略戦争、軍国主義への回帰を目指すということにほかならない。まさに「恐ろしい国」づくりだ。
安倍首相は村山談話、河野談話を継承すると述べたが、従軍慰安婦問題で強制はないという言葉は世界中の批判を浴びた。ブッシュ大統領に謝ったが、お詫びする相手は元慰安婦の方々にすべきで、お詫びするならまずその言葉を取り消すべきだ。
第3に、「海外で戦争をする国」づくりには、それを支える国民が必要で、国民の心まで支配しようとする動きが具体化してきたことを指摘したい。教育基本法改悪を強行し、具体化を図っているのはそのためだ。これはメディアでも指摘されている。
日本会議のホームページの「わたしたちのめざすもの」には、「行きすぎた権利偏重の教育、わが国の歴史をあしざまに断罪する自虐的な歴史教育、ジェンダーフリー教育の横行は、次代をになう子供達のみずみずしい感性をマヒさせ、国への誇りや責任感を奪っています」といい、「国を愛し、公共につくす精神の育成」をめざすことが強調されている。「自虐的」というのは、侵略戦争や植民地支配を真摯に反省することだし、ジェンダーフリー教育を敵視し男女共学まで否定している。「新しい歴史教科書をつくる会」の会長を務めた男は、「男の子が萎縮して気力のない子が増えるのは男女共学が続きすぎるから」と言っている。
われわれはこの安倍内閣の暴走をいささかも軽視できない。しかし同時に、この暴走は、国民との矛盾、世界との矛盾を劇的に広げつつある。いま、その危険な正体を広く国民に明らかにするならば、国民の圧倒的多数は、憲法改悪に反対の声を上げると確信する。読売の世論調査は、9条改定反対の声が2年連続で増えたとしている。憲法改悪反対のゆるぎない国民的多数派づくりに力を合わせようではないか。
(了)